
1.血糖が下がり痩せるだけではない
マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬が日本で2型糖尿病の治療薬として承認されたのは2023年4月。当初の注目は「体重がよく落ちる」の一点に集まっていました。
しかし2024年以降、様々な研究が行われただの糖尿病・肥満関連薬ではなく 「心筋梗塞や脳卒中を起こす確率が減る」「腎臓の働きをより長く保つことができる」「心不全で入院するリスクを減らす」 効果があることがわかってきました。肥満症・糖尿病・心血管疾患の治療を最前線で行う循環器内科の視点からこれらの情報についてお話しします。
2.「2つのスイッチ」を押す薬
マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬は、食後に腸から出る2種類のホルモン(GLP-1とGIP)に同時に働きかける週1回の注射薬です。2.5mg〜15mgまで6用量が存在します。
働きは、
- 血糖が高いときにインスリン分泌を助ける
- 胃からの食物排出を緩やかにし満腹感をより長く保つ
- 食欲を落ち着かせる
- 脂肪組織・血管・腎臓に作用し、炎症や血圧、体液量に影響する
——の4つ。体重減少は結果のひとつであって、すべてではありません。
近年では飲酒欲求を減らすというような報告も出てきており、もっと良い効果効能が見つかるかもしれません。
3.新たな適応追加
①FDAが「心血管リスクを下げる薬」として承認
2026年8月28日、米国FDAは、心血管リスクの高い2型糖尿病の成人において、「心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中のリスクを下げる」という効能をマンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬に追加しました。血糖や体重とは別枠の、「実際の発作を減らす」ことを認めた承認です。
②ESC心不全ガイドラインに初めて登場
同じ8月28日、世界最大の循環器学会の1つである欧州心臓病学会(ESC)は、5年ぶりに心不全ガイドラインの改定を公表しました。
症状のある心不全で左室駆出率45%以上・BMI 30以上の患者に、糖尿病の有無を問わず、体重減少・運動耐容能・生活の質の改善を目的にマンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬を考慮すべき(Class IIa) と発表されました。「肥満を伴う心不全の方には、糖尿病の有無に関わらずGLP1製剤を使用しましょう」ということが力強く宣言されています。ただ減量するということではなく、ある特定の薬剤名が心不全治療の推奨に明記された点が非常に画期的で新しいポイントです。
4. 腎臓への効果
循環器・糖尿病領域では、腎臓を守れるかどうかが長期予後を大きく左右します。SURPASS-CVOTの事前規定解析(Lancet Diabetes & Endocrinology, 2026)では、高度の蛋白尿・eGFR(腎機能)の50%以上の低下・末期腎不全・腎疾患死をまとめた腎アウトカムをみると
- マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬を使用する方が腎機能低下を23%抑えられる
という結果でした。
36か月時点のeGFR(腎機能)低下が 約3.2 mL/分/1.73m² 分抑えられ、尿中アルブミンの減少幅も大きいものでした。これらの結果から、近年では慢性腎臓病(腎機能が悪い)方が使用すべき薬剤の1つと言われています。
5. 心不全への効果
心不全は①心臓の収縮力が低下するタイプと②収縮力が維持されているタイプの大きく2つに分けられます。高齢者の心不全の約半分は、②の収縮力が保たれているタイプです。②の心不全で肥満を伴う 731人を対象としたSUMMIT試験(NEJM, 2025)では
- 心血管死または心不全悪化イベントが約38%
- 体重 −15.7%(プラセボ −2.2%)、
- 症状・歩行距離の改善
- 52週で収縮期血圧 −5mmHg、循環血液量 −0.58L、炎症マーカーCRP −37.2%
- 心臓MRIでは左室の心筋量と心臓周囲の脂肪が減少
心不全の悪化を約4割減らすという脅威的な結果であり、「痩せたから楽になった」だけでなく、心臓そのものの負担のかかり方が変わっていることを示す結果でした。心臓と腎臓を合わせた6項目の複合アウトカムも16%低下しており、心臓と腎臓と代謝は一体であるという「心腎代謝症候群」の考え方に、この薬がよく合致することを示すデータです。
6. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)にも
肥満を伴う中等症〜重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が止まる回数が最大で約63%減少すると報告されました(SURMOUNT-OSA)。この結果から、米国では2024年、マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬が睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対する初めての薬物治療として承認されました。SASは
- 高血圧
- 糖尿病
- 脳梗塞
- 大動脈解離
- 心房細動
- 心不全
上記の重大疾患の引き金であり、循環器内科としても見逃せない領域です。睡眠時無呼吸症候群への世界初の根本治療となっています。
7. なぜ体重以外にも効くのか
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内臓脂肪・異所性脂肪の減少:肝臓や心臓周囲、血管周囲の脂肪が減り、臓器の負担が軽くなる
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慢性炎症の鎮静:CRP(炎症タンパク)の低下が一貫して観察されている
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血圧と体液量の低下:心臓の働く仕事量そのものが減る
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腎臓の過剰ろ過の是正:働きすぎた糸球体(腎臓)の負担を下げ、蛋白尿の出現を抑える
体重減少は「入口」であり、その後ろで血管・腎臓・心臓への負担が軽くなっていると考えられます。
8. 日本での位置づけと注意点
- ※マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬は日本では「2型糖尿病」の治療薬として承認されています。肥満症への保険適用はありません。
- ※本記事で紹介した海外の試験・ガイドライン・FDA承認は、国内の保険適用をただちに意味するものではありません。
- ※副作用は吐き気・下痢・便秘が中心で、増量直後に出やすく、ゆっくり増量することが対策になります。
- ※まれに急性膵炎・胆のう炎・腸閉塞といった重篤な副作用が発生する可能性があります(0.1%〜0.4%)。インスリンやSU薬との併用では低血糖に注意が必要です。
- ※甲状腺髄様がんの既往・家族歴のある方は使用できません。
中止すると体重は戻りやすく、筋肉量の維持にはタンパク質摂取と運動が欠かせません。「始め方」と同じくらい「続け方」が重要です。
9. こんな方は一度ご相談ください
保険診療で相談できる方
2型糖尿病があり、
- 血糖が下がりきらない/体重が減らない
- 健診や他院で慢性腎臓病・尿蛋白(アルブミン尿)・eGFRの低下を指摘された
- 息切れ・むくみ・体重増加があり、心不全を指摘されたことがある
- いびきや日中の眠気があり、睡眠時無呼吸症候群が疑われる
これらは、減量だけでなく心臓・腎臓の評価が必要な状態です。当院では糖尿病治療から心不全・慢性腎臓病治療、睡眠時無呼吸検査/治療まで対応可能です。
自費のダイエット外来をご検討の方
保険適応の基準には当てはまらないものの、
- 健診で肥満・内臓脂肪・脂肪肝・高血圧・脂質異常症を指摘された方、これまで減量がうまくいかなかった方
には、自費のダイエット外来で薬物療法を含めた選択肢をご提案します。詳しくはダイエット外来をご案内ください。導入・維持からやめ方・中止後のリバウンド予防まで伴走します。
10. まとめ:効果が見込める方に、安全性を最優先して使用
- FDAはマンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬に心血管リスク低減の適応を追加(2026年8月)
- ESC心不全ガイドラインでマンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬がClass IIaに追加
- 総死亡は少なく、腎アウトカムは23%低下、心不全悪化は約38%減少
マンジャロGIP/GLP-1受容体作動薬は、もはや「体重を減らす薬」の枠には収まりません。ただし、誰にでも同じ結果が出る薬ではありません。
大切なのは、この薬で本当に恩恵を受けられる方を見極めて開始し、開始後もきちんとフォローし続けることです。さらに治療を受ける方の協力も必要です。
当院では、治療中も体重だけでなく血圧・腎機能・血糖・尿・副作用などを定期的に確認しながら、必要に応じて用量や併用薬を調整していきます。数字が落ちたことではなく、「将来の心筋梗塞・心不全・透析のリスクが下がることを最も大切なゴール」とし、長期的に伴走します。
体重・血糖・腎臓・心臓のことで気になる点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- Nicholls SJ, et al. Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;393(24):2409-2420.
- Zoungas S, et al. Tirzepatide and dulaglutide on major kidney events (SURPASS-CVOT pre-specified analyses). Lancet Diabetes Endocrinol.
- Cardiorenal Outcomes With Tirzepatide Compared With Dulaglutide: Post Hoc Analysis of SURPASS-CVOT. JAMA Cardiol.
- Packer M, et al. Tirzepatide for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity (SUMMIT). N Engl J Med. 2025;392(5):427-437.
- Køber L, Adamo M, et al. 2026 ESC Guidelines for the management of heart failure. Eur Heart J.
- Horn DB, et al. Tirzepatide for maintenance of bodyweight reduction (SURMOUNT-MAINTAIN). 2026;407:2305-2318.
- Malhotra A, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med.
- Eli Lilly. FDA approves Mounjaro to reduce cardiovascular risk in adults with type 2 diabetes. News release. Aug 28, 2026.
文責
髙橋 剛士(たかはし ごうし)
わらび内科・循環器内科クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医/日本循環器学会 循環器専門医/日本心血管インターベンション治療認定医/抗加齢学会専門医/日本医師会認定産業医
医療に関する免責事項
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を目的とするものではありません。内容は執筆時点(2026年9月)の情報に基づき、紹介した海外の臨床試験・ガイドライン・海外での承認は、日本国内の保険適用や効能・効果を保証するものではありません。薬剤の効果には個人差があり、治療の判断は必ず医師にご相談ください。
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わらび内科・循環器内科クリニック(埼玉県蕨市・イオンタウン蕨内)
糖尿病・慢性腎臓病・心不全の保険診療、ダイエット外来(自費)のいずれもご相談いただけます。












