閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の新治療
わらび内科・循環器内科クリニックです。今年も残すところ数日となりました。今日は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の新治療についてお話しします。
現時点でのOSAの治療法は?
現時点でOSAの治療は
①マウスピース療法
②CPAP療法(持続陽圧呼吸療法:就寝時にマスクをつける)
が主な治療法となっており、特に中等症以上のOSAについてはCPAP療法が心血管イベントを低減する治療法として推奨されています。しかしこれは肥満により皮下脂肪が蓄積することで睡眠中に上気道が閉塞され無呼吸となる状態を、機械による圧をかけて無理やり呼吸させるという手段であり根本治療ではありません。
新たな治療薬:ゼップバウンド®
ゼップバウンド®(Zepbound)は、肥満症や過体重の治療を目的とした新しい薬剤です。チルゼパチド(Tirzepatide):GLP-1受容体作動薬とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体作動薬の2つの経路を活性化する「デュアルインクレチン」と呼ばれる画期的な治療薬で、マンジャロ®という名前で糖尿病の治療薬としてすでに使用されています。マンジャロ®が名前を変えて肥満症に対して保険適応使用される、ということになります。
FDAの承認状況
ゼップバウンド®は2023年11月に米国食品医薬品局(FDA)によって肥満および過体重の治療薬として承認されました。具体的には、以下の条件を満たす患者に適応されています。
- BMIが30以上の肥満症患者
- BMIが27以上で、少なくとも1つの体重関連疾患(例:高血圧、2型糖尿病、高脂血症)がある患者
FDAはゼップバウンドを、生活習慣の改善(食事療法や運動)と併用することで体重減少を促進する薬剤として認めています。
その後、本薬剤使用により概ね18-20%体重減少を認めたことで無呼吸低呼吸指数(AHI)が-27〜30と約半減する研究結果が得られました。これをもってFDAは2024年の12月に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の世界初の治療薬としてゼップバウンド®を承認しました。
ゼップバウンド®の効果
ゼップバウンド®は、肥満症や過体重患者における長期的な体重管理、無呼吸状態の改善を目的とし投与されます。臨床試験では、先述の通り平均で体重の約15%以上の減少が確認されており、既存のGLP-1受容体作動薬よりも高い効果が示されています。
さらに、心血管疾患や2型糖尿病などの合併症リスクの低減にも寄与する可能性が示唆されています。特に、インスリン分泌の促進や血糖値のコントロールが期待できるため、肥満を伴う2型糖尿病患者にも大きなメリットがあります。
マンジャロ®のデータにはなりますがアルコール依存症の方の飲酒欲求を減少するという報告もあります。多方面での活躍が期待される薬剤です。
日本での使用可能時期は?
現在、ゼップバウンドは日本では未承認の薬剤です。しかし、日本国内でも肥満や過体重に対する治療薬としての期待が高まっており、承認申請の動きが進んでいるとされています。
通常、新薬の日本国内での承認プロセスには、
- 臨床試験(第1相~第3相試験)
- 厚生労働省への承認申請
- 審査・評価
といった手順が必要であり、承認までに数年を要するケースが多いです。ゼップバウンドの場合、米国FDAでの承認を受けており、日本国内でも第3相試験が進行中であるため、早ければ2025年から2026年頃には使用可能となる可能性があります。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群で適切な治療介入がされている患者は本邦でも10%以下と言われており、ゼップバウンドは本治療に革命をもたらす可能性を持つ新薬です。
以前に発売された肥満症治療薬ウゴービ®は施設基準が厳しく一般の医療機関では処方ができませんでした。本薬剤も何らかの施設制限がかかる可能性はあるかもしれませんが、肥満やその関連疾患で悩む多くの患者にとって、大きな希望となるでしょう。
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