目次
はじめに
近年、「SGLT2阻害薬」という薬が注目を集めています。当初は糖尿病治療薬として登場しましたが、今では心不全や慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)に対しても効果があることが明らかになり、治療の幅が広がっています。本記事では、SGLT2阻害薬の働き、期待される効果、そして副作用や注意点についてわかりやすくご紹介します。
SGLT2阻害薬とは?
SGLT2阻害薬は、「尿中へ糖を出す」という独特な作用を持つ薬です。SGLT2は腎臓にある糖の再吸収を行う輸送体で、この働きをブロックすることで、血液中の糖を尿と一緒に体外に排出させます。
多くの糖尿病治療薬はインスリンを介して血糖を改善させますが、SGLT2阻害薬はインスリンと関係なく血糖値を下げられるのが大きな特長です。
糖尿病への効果
SGLT2阻害薬は、2型糖尿病患者の血糖コントロールに有効です。先程も言いましたが、インスリン分泌とは独立して作用するため、膵臓に負担をかけずに使える点が魅力です。また、体重減少や血圧低下などの副次的な効果もあります。
主な使用薬剤(国内で承認)
- ・ダパグリフロジン(フォシーガ®)
- ・エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
- ・カナグリフロジン(スーグラ®) など
心不全への効果:薬理作用を超えた新たな展開
SGLT2阻害薬の驚くべき効果は、「心不全」に対しても改善効果を示したことです。
心不全には
- ・収縮力が低下した心不全(HFrEF)
- ・収縮力が維持された心不全(HFpEF)
があります。
代表的な臨床試験
- ✔️DAPA-HF試験(2019年)
ダパグリフロジンが心不全のある患者(HFrEF)に対し、心血管死および心不全による入院を有意に減少。 - ✔️EMPEROR-Reduced試験(2020年)
エンパグリフロジンが、糖尿病の有無にかかわらず、HFrEFの予後改善に貢献。 - ✔️DELIVER試験(2022年)
- 糖尿病の有無に関わらず、ダパグリフロジンのHFpEF(駆出率が保たれた心不全)に対する有効性が認められた。
→これらの結果から、心不全全体に対する新しい選択肢として日本循環器学会のガイドラインでも位置づけられています。
腎臓病への効果:慢性腎臓病の進行抑制
SGLT2阻害薬は、慢性腎臓病(CKD)の進行を抑える効果も明らかになっています。腎臓病の進行を遅らせるということはすなわち”透析導入を遅らせる”ということです。
- ✔️DAPA-CKD試験(2020年)
- 糖尿病の有無を問わず、ダパグリフロジンはCKDの進行・腎死・心血管死のリスクを有意に低下させました。
- ✔️EMPA-KIDNEY試験(2022年)
- 糖尿病の有無を問わずエンパグリフロジンも慢性腎臓病の増悪や心血管疾患による死亡を有意に減らす結果となりました。DAPA-CKDと比べより重度の腎機能障害を持つ患者群も含まれています。
これらの結果により、現在では腎不全予防薬としても保険適用が広がっています。
なぜここまで効果があるのか?
SGLT2阻害薬の恩恵は、単なる血糖降下にとどまりません。以下のような全身的作用が心血管・腎機能の保護につながっていると考えられています。
- 尿中ナトリウム排泄増加による利尿作用(心不全改善)
- 体重減少(心負荷軽減)
- 血圧低下
- 腎糸球体内圧の低下(腎保護)
- 心筋代謝の改善
副作用と注意点
SGLT2阻害薬は比較的安全性が高い薬ですが、注意すべき副作用もあります。
主な副作用
- 尿路感染症・性器感染症(糖尿排泄による)
- 脱水・低血圧
- ケトアシドーシス(極めて稀だが重篤)
- 腎機能の急激な増悪(脱水併発時)
脱水に注意し、水分補給をしっかり行うことが大切です。特に高齢者や利尿薬を併用している方は、定期的な検査と慎重な管理が求められます。
現在の適応疾患と保険診療の範囲(2025年時点)
疾患 |
保険適用 |
備考 |
2型糖尿病 |
○ |
通常用量で適応あり |
心不全(HFrEF・HFpEF) |
○ |
左室駆出率に関わらず適応あり |
慢性腎臓病(CKD) |
○ |
糖尿病の有無を問わず適応拡大 |
まとめ:心臓・腎臓・糖尿病の「三位一体」治療における中核薬へ
SGLT2阻害薬は、いまや糖尿病・心不全・腎不全をまたいで効果を発揮する新しい時代の治療薬となっています。「どの病気に使うか」ではなく、「どの病態に効果があるか」という観点で、これからの医療を変えていく存在です。
当院でも、糖尿病や心不全、腎機能低下のある患者さまに対し、SGLT2阻害薬の導入を行っています。心不全・腎不全・糖尿病の精査を希望の方、健診で異常を指摘された方等、ぜひご相談ください。
よくある質問(FAQ)
- 糖尿病でなくてもこの薬は使えますか?
A. はい、心不全や慢性腎臓病のある方であれば、糖尿病の有無に関係なく保険適用で使用できます。 - 毎日服用が必要ですか?
A. 原則として、1日1回の服用です。朝食後に服用することが一般的です。 - 自費診療での使用はありますか?
A. 基本的には保険診療でカバーされますが、未承認の用途や予防目的での使用は自費となる場合があります。詳細は医師にご相談ください