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慢性腎臓病とは?高血圧・糖尿病・痛風がある方は早めのチェックを
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎臓の働きが少しずつ低下していく病気です。初期にはほとんど自覚症状がなく、気づかないうちに進行し、やがて人工透析や腎移植が必要となることもあります。以下に当てはまる方は慢性腎臓病と定義され、早期の治療介入が重要です。
【定義】
①尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか.特に 0.15 g/gCr 以上の蛋白尿(30 mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要
②eGFR<60 mL/分/1.73 m2 ①, ②のいずれか,または両方が 3 カ月以上持続する
特に、高血圧・糖尿病・痛風(高尿酸血症)のある方は、CKDのハイリスク群であり定期的な検査と予防が非常に重要です。
※CKD診療ガイドライン2012より抜粋
心臓病や脳卒中のリスクが数倍に!
慢性腎臓病は「腎臓の病気」であると同時に、全身の血管・心臓の病気とも深く関係していることがわかっています。
特に、CKDの方は心筋梗塞や心不全、脳卒中といった心血管イベントを起こすリスクが2〜4倍に増加すると報告されています(※1, 2)。
これは、腎機能が低下することで体内の老廃物がうまく排出できなくなり、動脈硬化や高血圧が進行しやすくなるためです。
そのため、CKDの治療では腎臓だけでなく、心臓・脳血管の健康も同時に守ることが重要です。
腎臓は体のフィルター
腎臓は血液をろ過し、老廃物や余分な水分・塩分を尿として排出する重要な臓器です。その他にも以下の働きがあります:
- ✔️血圧の調節
- ✔️骨を健康に保つホルモンの活性化
- ✔️赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)の分泌
腎臓の働きが低下すると、むくみ・貧血・高血圧・骨粗しょう症などさまざまな症状につながる可能性があります。
慢性腎臓病の主な原因
糖尿病
長期間の高血糖により、糖尿病性腎症を起こします。日本での透析導入の最も多い原因疾患です(※3)。
高血圧
高血圧が腎臓の血管に圧力をかけ続け、腎機能が徐々に低下します(※4)。腎硬化症と呼ばれます。
痛風(高尿酸血症)
尿酸が高い状態が続くと腎臓に結晶がたまり、「痛風腎」という状態になります。(※5)。
その他
- ✔️加齢
- ✔️慢性腎炎(IgA腎症など)
- ✔️薬剤性腎障害(ロキソニン等の痛み止めなど)
- ✔️多発性嚢胞腎(遺伝性)・・・・・・・
検査で早期発見を
血液検査:eGFR
血液中のクレアチニン値から計算されるeGFR(推算糸球体ろ過量)は、腎臓の働きを示す数値です。
60未満で3ヶ月以上続くとCKDと診断されます(※6)。
尿検査:尿たんぱく・尿潜血
腎臓に障害があると尿中にたんぱくが漏れ出ます。たんぱく尿は腎障害の重要なサインです。健診等で指摘された場合は早めに受診しましょう。
血圧測定
高血圧はCKDの原因となる場合があります。低すぎてもいけません。適切な管理が重要です。
腎生検
原因が不明な腎障害や、IgA腎症・膠原病などを疑うときに、腎臓の組織を一部採取して診断する検査です(※7)。
治療・進行予防の柱
① 栄養指導(食事療法)
腎臓を守るには日々の食事が非常に重要です。
当院では管理栄養士による個別栄養相談を行っています。
- ✔️塩分:1日6g未満を目安に
- ✔️たんぱく質:摂りすぎは腎臓に負担、必要量は個別調整
- ✔️水分:脱水状態を避ける
- ✔️尿酸対策:プリン体の多い食品(内臓・干物・アルコール)を控える
② 薬物治療
● 降圧剤
ACE阻害薬やARB(レニン–アンジオテンシン系阻害薬)は、腎臓の保護効果があります。
● SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン・ダパグリフロジン等)
糖尿病薬として開発されましたが、腎臓の保護にも強い効果を示し、糖尿病の有無にかかわらずCKDの進行を抑えることが臨床試験で証明されています。
「DAPA-CKD試験」では、ダパグリフロジンにより腎機能の悪化や死亡のリスクが大幅に減少しました(※8)。
主要評価項目(腎機能悪化または腎・心血管疾患による死亡)を2.4年時点で約4割程度減らすことが証明されました。
● フィネレノン(ケレンディア®)
2021年に新たに登場した腎臓保護薬で、ミネラルコルチコイド受容体を阻害し、腎臓の線維化や炎症を抑える作用があります。
糖尿病性腎症の進行を抑える効果が「FIDELIO-DKD試験」で証明されています(※9)。
SGLT2阻害薬と併用も可能とされており、今後のCKD治療における重要な選択肢の一つです。
血圧・血糖・尿酸の管理目標は?
以下を目標に管理を行います。
項目 |
目標値(一般的) |
血圧 |
130/80mmHg未満(CKD患者) |
HbA1c |
6.0〜7.0%(糖尿病のある方) |
尿酸 |
7.0mg/dL未満(痛風リスク低下) |
定期フォローで腎臓を守る
CKDは静かに進行する病気です。症状がないうちに発見し、対策を講じることが重要です。
特に、投薬治療も腎機能を改善させる効果はなく増悪を遅らせる効果が中心であり、診断された場合は早期の治療開始が最も重要です。
当院では、血液・尿検査、栄養指導、薬物治療を通して、腎臓の健康を長期的にサポートしています。加えて、心血管疾患の合併も多く、これらも併せてフォローを行います。
まとめ:早期の発見が将来を変える
慢性腎臓病は、放置すれば人工透析に至ることもある病気ですが、早めの対策でその未来を変えることができます。
誰しもが将来透析にはなりたくないはずです。
糖尿病・高血圧・痛風のある方、健診で腎機能を指摘された方は、ぜひ一度ご相談ください。
「まだ症状がない今こそ」が、腎臓を守る最大のチャンスです。
参考文献(※)
- Go AS, et al. NEJM. 2004;351(13):1296–1305.
- Matsushita K, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015;3(7):514–525.
- 日本腎臓学会. CKD診療ガイド2023
- KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Blood Pressure in CKD
- Feig DI. Hyperuricemia and kidney disease. Curr Opin Rheumatol. 2014;26(2):135-142
- 日本腎臓学会. eGFRによる慢性腎臓病の定義
- 日本腎臓病学会. 腎生検ガイドライン2021
- Heerspink HJL et al. NEJM. 2020;383:1436–1446
- Bakris GL et al. NEJM. 2020;383:2219–2229