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心房細動とスマートウォッチ:早期発見と診断・治療の新たな可能性
近年、スマートウォッチが医療分野で注目を集めています。特に心房細動(AF)の検出機能が搭載されたApple Watchなどのデバイスは、心血管疾患の早期発見に貢献すると期待されています。心房細動は心臓が不規則に震えることで血液の流れが悪くなり、血栓(血の塊)を作る不整脈です。これが原因で脳梗塞や心不全といった重大な合併症を引き起こす可能性があり、早期発見と適切な治療が重要です。
スマートウォッチによる心房細動の診断について、最新の知見をもとに詳しく解説します。
1.心房細動とは?症状とその危険性
心房細動は、左心房が1分間に300~600回以上の速さで不規則に震える状態を指します。この結果、左心房内に血栓ができる場合があり、それが脳に飛ぶことで脳梗塞を引き起こす危険性があります。
主な症状
- ・動悸(ドキドキする感覚・脈の不整感)
- ・息切れ(軽い運動でも息苦しさを感じる)
- ・めまい・ふらつき(血圧が下がる場合がある)
- ・倦怠感
- ・胸の違和感
しかし、心房細動は無症状のことも多く自覚症状がないまま進行するケースが少なくありません。そのため、定期的な検査や自己管理が重要になります。
2.スマートウォッチで心房細動を検出する仕組み
近年のスマートウォッチには光学式心拍センサーや心電図(ECG)機能が搭載され、心拍数の異常や不整脈を検知できるようになっています。
(1)光学式心拍センサー
Apple Watchをはじめとするスマートウォッチには、**光学式心拍センサー(PPG:Photoplethysmography)**が搭載されており、血管の膨張と収縮を感知することで、心拍数やリズムの変化をモニタリングします。この機能を利用し、心房細動の疑いがある場合はユーザーに通知を送る仕組みになっています。
(2)心電図(ECG)機能
Apple Watch Series 4以降には、心電図(ECG)機能が搭載されており、以下の方法で簡易的な心電図を測定できます。(Apple Watch SEはできません)
心電図測定の方法
- Apple Watchのデジタルクラウン(側面のボタン)に指を30秒間当てる
- 心電図アプリが心拍の電気的活動を記録
- 結果が「洞調律(正常)」「心房細動の可能性あり」「判定不可」として表示される
この機能を活用することで、心房細動の可能性をいち早く察知することが可能になります。
3.Apple Watchの心房細動検出の精度
スマートウォッチの心房細動検出機能の精度については、いくつかの研究が行われています。
- 「Apple Heart Study」
- ・Appleとスタンフォード大学が共同で実施した大規模研究
- ・42万人以上の参加者のうち、Apple Watchから「心房細動の可能性あり」と通知を受けた2161人のうち、実際に心房細動と診断されたのは84%
- ・スマートウォッチの心房細動検出機能は高精度であることが示唆
- 別の研究では
- ・Apple WatchのECG機能の感度(病気を正しく見つける確率)は98.0%
- ・特異度(健康な人を正しく判定する確率)は90.2%
- ・つまり、かなり高い精度で心房細動を検出できるが、最終的な診断には医療機関での検査が必要
4.スマートウォッチでの心房細動検出の限界
スマートウォッチは高精度ですが、以下のような制限もあります。
- ・一時的な心拍の乱れも心房細動と誤検出する可能性がある
- ・スマートウォッチの電極は簡易的なもののため、医療用の十二誘導心電図と比べると精度は劣る
- ・一部の人では、皮膚の状態や時計の装着位置によって正確な測定が難しい
- ・他の種類の不整脈(例:心室頻拍・心室性期外収縮など)は検出できない
そのため、スマートウォッチの結果はあくまで参考情報とし、異常を感じたら必ず医療機関を受診することが重要です。
5.クリニックでの診断と治療
(1)スマートウォッチ外来の活用
最近では、スマートウォッチのデータを医療機関で活用する動きが進んでいます。「スマートウォッチ外来」では、患者さんが記録した心電図データを基に、医師が正式な診断を行い、必要に応じて追加検査や治療を行うことが可能です。
当院でもスマートウォッチにて心房細動を指摘された方がたくさん来院されています。お気軽にご相談ください。予約はこちら
(2)心房細動の治療方法
心房細動が診断された場合、以下のような治療が検討されます。
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薬物療法
- ・抗不整脈薬(心房細動の発作を抑える)
- ・抗凝固薬(脳梗塞予防)
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カテーテルアブレーション
- ・異常な電気信号を発生させる心筋を焼灼する治療
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ペースメーカー植込み
- ・徐脈性心房細動(脈拍が病的に遅い)の場合に検討
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生活習慣の改善
- ・バランスの取れた食事
- ・禁煙・節酒
- ・ストレス管理
- ・ダイエット・減量(肥満も心房細動のリスク)
- ・睡眠時無呼吸があればその治療
6.まとめ:心房細動の早期発見と予防のために
スマートウォッチは、心房細動の早期発見に役立つ画期的なデバイスですが、最終的な診断の確定には医療機関での精密検査が必要です。当クリニックでは、スマートウォッチで記録した心電図データを有効活用し診療を行っております。
心房細動の早期発見と予防のために、定期的な健康管理を心がけましょう。動悸や不整脈が気になる方は、お気軽にご相談ください。